Hans Potterの日々

映画と音楽と本、そして食べることが好きなオジサンです。徒然なるままに…

ゼロの焦点 金沢の懐かしい風景を訪ねて

前回、ゼロの焦点のラストシーンについて書きましたが、今回は映画に登場する金沢の懐かしい風景を訪ねましょう。

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映画のロケ地

映画(2009年版)

2009年版の映画には、金沢らしいところは登場しません。最初に出てくる金沢駅のシーンから「ん?」です。

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2009年版の金沢駅。周囲に小高い丘が…

汽車が金沢駅に入線するシーンで、駅の周りに小高い丘が見えます。金沢駅は湿地帯の平坦な土地(当時は金沢の町外れで開発が遅れていた)に造られた駅ですから、周囲に丘など小高い場所はありません。どこか別の場所ですね。

調べると、ほとんどが韓国でのロケやセット撮影のようです。

映画(1961年版)

1961年の映画は、原作とほぼ同じ年代の撮影ですので、大部分が金沢でのロケです。女優さん(久我美子さん、高千穂ひづるさん、有馬稲子さん)方は、私にはあまり馴染みのない方々ですが内容的には好きですね。
と言うことで、1961年版で懐かしい金沢の風景と懐かしいシーンを探してみます。


ゼロの焦点(予告)

金沢のロケ地

金沢駅と東別院の2ショット

主人公 鵜原禎子が金沢に着いた後、金沢駅(航空写真の❶)と真宗大谷派 東本願寺 金沢別院(以下、東別院)(航空写真の❷)を映したシーンがあります。映画に登場する東別院の建物は、1962年(昭和37年)の火事で焼失していますし、金沢駅も新しくなっています。今は存在しない二つの建物の映像。中々のショットですね。

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左手前:東別院。右後方:金沢駅(映画のシーン)

最初は旧の丸越百貨店(航空写真の❸)からの撮影だと思いましたが、それだと映画のシーンと建物の角度が違います。当時の航空写真で探したところ、金沢電報局(航空写真の❹、 金沢統制無線中継所 金沢電話施設所)の屋上辺りからの撮影が一番映画のシーンに近いような気がします。

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金沢駅と東別院の位置関係(出典:国土地理院のウエブサイトより作成)

https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1

1963年(昭和38年)、金沢電報局の屋上に電波塔が完成します。

1978年の映画「野性の証明」では、東別院の後方に電波塔が写っていました。

高い建物が無かった当時の金沢では目立つ高さで、彦三の電波塔として55年間親しまれていましたが、通信のデジタル化に伴い取り壊されました。

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昭和37年頃の金沢駅(出典:金沢くらしの博物館 展示より)

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現在の金沢駅 鼓門

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東別院。後方は金沢電報局の電波塔(映画「野性の証明」のシーン)

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現在の東別院。屋根の葺き替え完了。後方にあった電波塔は取り壊されました

金沢駅で、電話している禎子の後方に人形が見えます。「郵太郎」と名付けられた郵便ポストです。今も金沢駅西口(下記の地図⓮)で頑張っています。

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映画のシーン

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現在の郵太郎

鵜原憲一の勤務先

失踪した夫、鵜原憲一の勤務先へ妻の鵜原禎子が訪れるシーンですが、事務所のボードに何故か「太平住宅」のポスター。鵜原憲一の勤務先のクライアント? クライアントだとしても、一社だけ掲示するのは不自然ですよね。

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左にポスターが…(映画のシーン)

当時の住宅地図で確認すると、金沢市尾張町に太平住宅の事務所(地図❺)があります。自信はありませんがここでの撮影でしょうか。当時の金沢市尾張町には企業の支店や営業所が多かったようです。

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金沢市ロケ地マップ(「今昔マップ on the web」より作成)

川沿いの道 主計町

鵜原憲一の元下宿先を訪ねた後、鵜原禎子と本多良雄(鵜原憲一の勤務先の後任)の二人が歩いているのは、道路横の川の幅や、雪の隙間から少し覗いているコンクリートの堤防などから判断すると、主計町の浅野川沿い(地図❻)だと思います。

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映画に登場する川沿いの雪道

映画公開の2年後、昭和38年は「38の豪雪」として大雪だったことが有名ですが、普通の年でもこんなに雪が!! 昔の金沢は、ごく普通に雪が多かったんですね。

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現在の主計町。映画のシーンでは、コンクリートの堤防はほとんど雪で埋もれています

主計町は2007年の映画「舞妓Haaaan!!!」でもロケ地になっています。ただし、主計町を含め、金沢でのロケは全て京都という設定でした。

舞妓Haaaan!!!」については別の機会に…。


映画「舞妓Haaaan!!!」劇場予告

雪道をパンプスで

駅でチッキ(鉄道による手荷物輸送)を確認した二人が歩いているのは、金沢市野町にある神社、神明宮の後ろにある道(地図❼)です。ここも雪がすごいな。

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映画のシーン

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現在のほぼ同じ場所のショット

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斜め上からの映画のシーン

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現在のほぼ同じ場所からのショット

禎子は東京から大急ぎで金沢へ来たので、雪道をパンプスで歩いています。当日の夜、宿泊先の旅館で仲居さんにブーツを買ってきてもらっています。中々細かい演出です。

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雪道をパンプスで歩く映画のシーン

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旅館の仲居さんにブーツを頼みました(映画のシーン)

尚、神明宮は金沢では有名な神社です。中原中也が金沢に住んでいた頃、この神社にもよく遊びに来たようです。 境内でのサーカスのことなどが中也の「金沢の思ひ出」に活き活きと書かれています。

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旅館

禎子が宿泊している旅館の窓から、下の方に川が見えますが、川幅から見て犀川でしょう。本多良雄が訪ねて来た時にお寺の鐘の音が聞こえますし、犀川を見下ろすような角度ですから、旅館は寺町台地にあると思います。後方の景色の右下方に橋が見えますが桜橋? そうとすれば、つば甚(地図❽)辺りか? それとも、雪吊りをした立派な庭木で判断すれば金茶寮(地図❾)辺り? そうなると橋は上菊橋?当時の地図で確認しましたが旅館らしきものを発見できず、この二つの料亭しか思い当たりません。

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旅館。後方風景の右下方に橋(映画のシーン)

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つば甚(料亭です)

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金茶寮(料亭です)

市電での移動

鵜原禎子と本多良雄の二人は、鵜原憲一が親しくしていた社長の会社 丸越工業(地図⓫)へ市電で移動します。
兼六園と石川門を繋ぐ石川橋の下を二人が乗った市電が走っています(地図❿)。

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二人が乗った電車のシーン

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現在の同じ場所

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車内の様子(映画のシーン)

車内には僧侶が二人。小説では東別院近くで電車を降り、本多が禎子に、

本願寺です。この辺は真宗が盛んな土地です”

(出典:松本清張ゼロの焦点」)

と説明していますが、映画の僧侶は剃髪していますので真宗ではないと思います。

僧侶の網代笠に「大」と「乗」の文字が見えます。大乗寺の寒行托鉢の修行僧でしょう。大乗寺の僧侶の寒行托鉢は、金沢では冬の風物詩となっています。
車掌が「次は寺町3丁目」と言っていますが、直前に石川門付近の風景が見えたのに、車掌がアナウンスした途端、寺町の風景に変わります。ちょっと気になるシーンですが、まぁ、この手の継ぎ接ぎはテレビのドラマでもよく見ますので置いといて…。
大乗寺周防正行監督の1989年の映画「ファンシイダンス」のロケ地に使われました。本木雅弘さん、その恋人役に鈴木保奈美さん、そして竹中直人さんら、豪華なメンバーが出演しています。

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石川門と堀

電車の走っている石川門付近の道路は、元は金沢城の堀でした。
今回その頃の写真を見つけました。埋立前と埋立後をご覧ください。地元の私も知らなかった時代の堀と石川門の姿です。

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堀と石川門(出展:金沢市図書館ウエブサイト)

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堀埋立後のほぼ同じ場所(出典:金沢市図書館ウエブサイト)

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現在のほぼ同じ場所

丸越工業の場所

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通りを右折して丸越工業へ(映画のシーン)

丸越工業として撮影している場所(地図⓫)は、当時の地図で見ると同和火災でした。通りには野村証券大和証券。ここらは昔も今も金沢の金融街ですね。

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丸越工業(映画のシーン)

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現在の同じ場所

社長の自宅へ

室田社長の自宅へ二人はタクシーで向います。
タクシーを降りたのが兼六園に隣接する成巽閣の塀の前(地図⓬)です。今では塀も綺麗になっています。

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タクシーを降りる映画のシーン

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現在の成巽閣の塀

この成巽閣も映画「野性の証明」に登場します。

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映画「野性の証明」に登場する成巽閣

野性の証明」は東北の架空の市という設定でした。映画「舞妓Haaaan!!!」と同様、金沢ロケですが、金沢の名前は出てきません。

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室田社長の自宅はウィン館(地図⓭)です。

原作では

“車は市の南側にある高台を登った。(出典:松本清張ゼロの焦点」)“

とあります。イメージとしては寺町台地ですが、映画のウィン館は小立野台地です。

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映画のシーン

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現在の写真。当時と建物の向きが違っています

社長宅からの帰り道、

“この丘陵地帯は、後ろの方に雪をかぶった白山連峰が見え、前に金沢市街を俯瞰して平野が…(出典:松本清張ゼロの焦点」)”

との記述があります。丘陵地帯が寺町台地であれ小立野台地であれ、後方は富山県境の医王山です。前回書いた能登の断崖の場所と同様、どこかと勘違い?
尚、撮影に使われたウィン館は、明治24年アメリカ人宣教師トマス・ウィンが建築したもので、改修され、現在も北陸学院ウィン館として保存されています。
この北陸学院の幼稚園は、日本で最初のミッション系幼稚園と言われています。現在の金沢21世紀美術館の近くにあり、幼い頃を金沢で過ごした中原中也が通っていた幼稚園です。幼稚園も中也の「金沢の思ひ出」に登場します。 

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鶴来でのロケ

鶴来へ向かう道と加能屋

鶴来へ向かう道。道沿いに家が建ったのと電柱以外、遠景はあまり変わっていませんね。前方の右側に見える送電線の鉄塔も同じ場所です。

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雪道を鶴来へ(映画のシーン)

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現在の同じ道路(ドライブレコーダーの写真です)

禎子の義兄 鵜原宗太郎が殺された加能屋付近も銘酒 菊姫の大きな建物が建ちましたが、周囲は当時のような雰囲気です。

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加能屋前(映画のシーン)

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現在の同じ場所の写真

鶴来は金沢市の南に位置する町で、映画の中で地図が出てきます。位置関係はこれでご確認ください。

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鶴来の場所を示す場面(映画のシーン)

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映画に登場する鶴来の町並み

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現在の鶴来の町並み

おまけ

映画の中で、鶴来で殺された鵜原宗太郎が飲んでいるのは、室田佐知子から貰ったウヰスキーの角瓶ですが、原作ではポケット用の小瓶のウヰスキーとなっています。

ちょっと気になるシーンでした。2009年版では、原作どおりポケット用の小瓶でした。

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左側にウヰスキーの角瓶(映画のシーン)