金沢21世紀美術館の予備知識
金沢21世紀美術館
2004年(平成14年)10月9日に開館した金沢21世紀美術館。
来年(2024年)、開館20周年の節目を迎えます。
地方美術館の多くは、年間入場者数10万人程と言われています。
そんな中、2015年3月の北陸新幹線金沢延伸も相俟って、コロナ禍前の2018年度には過去最高となる258万人の入場者数があり、東京の名立たる美術館、博物館と並んで入場者数上位5施設の常連となっている金沢21世紀美術館。
https://www.sogo-unicom.co.jp/data/book/0520191002/news20191101.pdf
ネガティブな口コミ
多くの方が訪れる金沢市の人気観光スポットですが、時々ネガティブな口コミを見かけることがあります。
金沢21世紀美術館を何度か訪れているうちにネガティブとなる要因が見えてきました。
ネガティブになる要因 Ⅰ
以下、ネガティブとなってしまう要因と、その対応策らしきもの(≒予備知識)を探ってみます。
新しいもの、前例のないもの、自分が理解できないもの
ネガティブとなってしまう要因の一つは、「新しいもの、前例のないもの、自分が理解できないもの」に対する拒絶反応です。
尾山神社の神門
ここで、金沢の観光スポット尾山神社の神門について少し。
「なんで神社のことを…!?」との疑問があると思いますが、是非このまま読み進めてください。
”映える” 神門
今では ”インスタ映え” すると人気の撮影スポット 尾山神社の神門。
明治8年(1875年)に造立された尾山神社の神門は、和洋折衷を通り越して和漢洋折衷の特徴あるデザインです。三階部分にはギヤマンを嵌め込んだ窓も。
反対運動
明治の人々の目には和漢洋折衷の奇抜なデザインが異様に映ったようです。
金沢を訪れた幸田露伴や河東碧梧桐などの著名人が「レンガつくりの竜宮城」などと発言したため、「醜形門」、「レンガつくりの竜宮城」などと揶揄する声が多くなり、神門改造論が新聞紙上を賑わしたと言います。
以前、ブログに取り上げました。詳しくは下記リンクで。
金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館に話を戻します。
現代美術館に反対運動
実は、金沢21世紀美術館にも反対運動があったようです。
金沢は保守的な街ですから、金沢21世紀美術館という ”現代” 美術館への抵抗や反対運動は、著名人も含めてかなりのものだったようです。
金沢に居なかった時期なので「ようです」としか表現できませんが、「ハコモノ行政だ」、「歴史と伝統の金沢に何故ガラスの現代美術館が必要か」、「街の真ん中に変なものを作るな」等々。
金沢21世紀美術館の開館にも関わった、現在の四代目館長 長谷川祐子さんのインタビュー記事がありました。
当時の説明会では誰も現代美術のことをわかってくれなかったそうで、今では大人気のスイミング・プール(通称 レアンドロのプール)でさえ大反対だったようです。
尾山神社の神門の歴史と全く同じですね。
新しいもの、前例のないものに対する拒絶反応
明治の人の目には、「醜形門」、「レンガつくりの竜宮城」と映った尾山神社の神門。
それから130年近く経った平成でも、金沢21世紀美術館の設立時には「歴史と伝統の金沢に何故ガラスの現代美術館が必要か」、「街の真ん中に変なものを作るな」、です。
金沢だけに限りませんが、新しいもの、前例のないものに対する反対運動の論調は、明治の世も、そして平成になっても同じだったようです。
反対運動のあった建物二つが今では金沢市の人気観光スポットです。
皮肉なものです。
芸術は主観的なものだ
ただ、開館から20年近く経過し令和になった今でも昔と同じ考え方の人がまだまだいらっしゃるようで、“クズやゴミ、ガラクタばかりの展示” などという口コミを目にすることがあります。
以前読んだゲームクリエイター、ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)の言葉を覚えています。
“芸術は主観的なものだ。ある人には芸術でも それをゴミと言う人もいる。芸術という言葉はそれだけ不確かなものだ。それが映画であれ 本であれ 絵画であれ コンピューターゲームであれ 人は目にしたものを好きなように解釈する。
(ピーター・モリニュー)”
確かに捉え方、感じ方は十人十色、百人百様です。
しかし、公然とゴミやガラクタなどと仰る方は、余程の審美眼をお持ちなんでしょうね。私には到底無理です(笑)
金沢21世紀美術館のコンセプト
”「新しい文化の創造」と「新たなまちの賑わいの創出」を目的に開設”
(出典:金沢21世紀美術館WEBサイト)
金沢21世紀美術館のコンセプトです。
歴史と伝統の町 金沢に現代美術という「新しい文化の創造」、そして多くの入場者が行き交う「新たなまちの賑わいの創出」に成功しています。
因みに、金沢21世紀美術館は金沢大学附属小中学校と幼稚園の跡地に建っています。
従来の美術館のイメージを払拭して…
新しいコンセプトの現代美術館ですので、従来の美術館に対して持っている先入観のまま入館すると戸惑いが先行しネガティブ思考になると思います。
自分の持っている “美術館” のイメージを頭から消し去ってから入館した方が、私は良いと思います。
新しいもの、前例のないもの、自分が理解できないもの
以前、60代半ばと思しき男性が、「全然分からん。あんた等も分からんやろ」と連れのグループに話しかけたのを見かけたことがあります。
展示場の真中で大きな声で話しかけられたのが嫌なのか、自分とは相違する意見を押し付けられるのが嫌なのか、連れの方々(30~40歳代)は一様に困った顔で苦笑いでした。
「新しいもの、前例のないもの、自分が理解できないもの」に対して否定的になるのは、今も昔も同じようです。
年配の方の反応
特に年配の方は、ネガティブ以前、拒絶する方が多いようです。
私も齢を重ねて頭が固くなりつつあります。他山の石として…。
キャンベルのスープ缶
モーツァルトだけが音楽ではありませんし、モナリザだけが絵画ではありません。
生前には不遇な時を過ごし、亡くなってから認められた芸術家も多数存在します。
有名なアンディ・ウォーホルのキャンベルのスープ缶も、発表当時は抽象表現主義を侮辱していると批判されたそうですね。
優しい心で味わいましょう
室生犀星が自分の詩について書いています。
難しい批評や議論抜きの優しい心で味わいましょう。
“もとより詩のよいわるいはすききらひより外の感情で評価できないものだ。これらの詩がどれほどハアトの奥の奥に深徹してゐるかについて、今私は何もいへないけれど、人人はきつとよき微笑と親密とを心に用意して読んでくれるだらうと思ふ。むづかしい批評や議論ぬきの「優しい心」で味つてくれるだらうと思ふ。それでこそ私がこの本を世に送り出した甲斐のあることを感じるのだ。”
(出典:室生犀星 抒情小曲集 自序より)
したり顔で頷く必要はありません
羽織袴で畏まって訪れる必要はありません。
作品を見て、如何にも理解したかのようにしたり顔で頷く必要もありません。
訪れた方は、従来の美術館とは展示物はもちろん客層、年代層が違うのを実感すると思います。
先入観を払拭して入館すれば、流石、ミシュラン・グリーンガイドで二つ星の評価を受け、大手旅行雑誌(Travel + Leisure誌)など、外国でも評価が高い現代美術館(21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa.)だけに楽しめる筈です。
次回は、子供連れでの入場について
遊びに来た孫がこちらへ向かってきました。
長くなってきたので、今回はここまでとします。
次回は、孫にも関係する内容。意外と多い、子供連れの方のネガティブな口コミについて「ネガティブになる要因 Ⅱ」を続ける予定です。