Hans Potterの日々

映画と音楽と本、そして食べることが好きなオジサンです。徒然なるままに…

ゼロの焦点 小説と映画

ゼロの焦点へのプレリュード 冬の能登 

 日本海に付き出た特徴のある形の半島。石川県の能登半島です。突き出している分、風雪も強くなります。

能登半島 石川さゆり

石川さゆりさんの「能登半島」(作詞:阿久悠、作曲:三木たかし)の出だしでも

”夜明け間近 北の海は波も荒く” (出典:「能登半島」作詞:阿久悠

と唄われているように、冬の日本海から吹き付ける風雪は想像を絶します。

 波が海岸に打ち付けられてできる “波の花”。観光で見る分には綺麗ですが…。

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波の花(©石川県観光連盟)

厳しい自然 連続テレビ小説「まれ」の世界

NHK連続テレビ小説「まれ」で有名になった “間垣” も、風雪から家々を守るための生活の知恵。必需品であり飾りではありません。

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間垣(©石川県観光連盟)

海岸線が目の前に迫る、狭く急峻な土地を一所懸命開墾したのが “白米千枚田” です。

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白米千枚田(©石川県観光連盟)

ゼロの焦点の檜舞台

能登金剛

能登半島は、富山湾に面した波の穏やかな内浦と、日本海に面した波の荒い外浦に分けられますが、外浦に位置するのが能登金剛です。名前は、朝鮮民主主義人民共和国景勝地金剛山に因んだということで、外浦の荒波や風雪によって削られた断崖や奇岩が連続しています。
古くから名勝として名高く、歌川広重の六十余州名所図会にも「能登 瀧之浦」として登場します。

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歌川広重「六十余州名所図会」より 『能登 瀧之浦』(Wikimedia Commonsより)

Search results for "六十余州名所図会 能登瀧" - Wikimedia Commons

 そんな能登金剛を舞台にしたのが「ゼロの焦点」です。

ゼロの焦点 能登へのスポットライト

陸の孤島

随分前、遥か昔の話になりますが、能登を車で旅行したことがあります。海岸沿いの道路は狭く曲がりくねり、すれ違いにも苦労する箇所があります。待避所までバックしてすれ違うことも度々ありました。


ゼロの焦点(予告)

松本清張ゼロの焦点

陸の孤島とまで言われていた能登にとって、松本清張の「ゼロの焦点」の存在は途轍もなく大きいと思います。

1961年版の映画「ゼロの焦点」以降、観光ブームのお蔭で能登の道路も整備されてきています。最近では山を切り開いて立派な道路が開通しています。
“観光開発で自然が云々” と言う人もいますが、地元に住む人々にとっては “住んだことの無い都会人の戯言”  のようです。
実際、冬の能登、それも外浦を経験すれば、自然の厳しさ、荒々しさが分かりますよ。

映画「ゼロの焦点

ゼロの焦点の功罪 

能登にスポットライトをあて、能登観光に大きな貢献をした「ゼロの焦点」ですが、小説や映画では北陸の陰鬱さが強調され、そんなイメージが定着してしまった点は、やや残念です。
小説の冒頭、主人公の見合いのシーンで

”北陸の空気をもってきたような憂鬱”(出典:松本清張ゼロの焦点」)

という表現がありますし、2009年の広末涼子さん主演の映画はカラー映画ですが、打ち寄せる日本海の荒波とヤセの断崖をグレースケールで映し出し、鬱屈とした雰囲気を強調しています。ストーリーの設定からは仕方がないとは思いますが…。


Zero Focus

私は、1961年版および2009年版の映画「ゼロの焦点」は二作ともDVDで観ました。2009年版では、まだ20代の広末涼子さんと30代の中谷美紀さんが出演しています。

松本清張の歌碑

江戸の昔から景勝地として有名だった能登金剛ですが、如何せん陸の孤島でした。

そんな能登金剛ですが、小説と映画でスポットライトを浴び、一躍、観光スポットとなります。

訪れる観光客は増加しますが、ラストシーンの社長夫人 室田佐知子のイメージが強く、自殺者も増えたようです。

能登金剛には松本清張の歌碑があります。

”雲たれてひとりたけれる荒波を恋しと思えり能登の初旅”(出典:松本清張の歌碑)

この歌碑は、能登金剛に身を投じた女性を哀悼するために建てられたようです。

映画「祈りの幕が下りる時

2018年に公開された映画「祈りの幕が下りる時」にも、小日向文世さんが演ずる浅居忠雄と娘が、逃避行の途中で立ち寄る能登という設定で断崖が登場します。
ここでは、謎解きに関係する重要な事が起きます。後々、松嶋菜々子さん演ずる浅居博美の運命が……。詳しくは映画をご覧ください。
尚、阿部寛さんも断崖に立つシーンがありました。
能登金剛のロケのようですが自信はありません。

主人公の名前が ”加賀” 恭一郎だけに ”能登” も登場…!?


映画『祈りの幕が下りる時』予告

景勝地

ヤセの断崖を含めた能登金剛は夏に訪れると海も空も青く単に高い崖だけの印象ですが、冬に訪れると松本清張の「ゼロの焦点」の舞台だと実感できます。

冬の能登、それも外浦は、一度は経験しても良いと思います。「ゼロの焦点」の世界を経験できますよ。と言いながら、下の写真は夏休みに撮ったものです。スミマセン。

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巌門(遊覧船から)

ラストシーンはヤセの断崖!? ゼロの焦点のロケ地

映画のラストシーン

「ヤセの断崖=ゼロの焦点のラストシーン」が定着したのは1961年の映画からですね。
映画化にあたり、監督の野村芳太郎が冬の能登をロケーション・ハンティングした際、ヤセの断崖が原作のイメージと重なり選んだとのこと。

難しいとは思いますが、冬にヤセの断崖を訪れると

”海の色はくろずみ、白波だけが沖で牙をむいていた。”(出典:松本清張ゼロの焦点」)

と表現した松本清張の原作にピッタリだと思います。

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ヤセの断崖(©石川県観光連盟)

野村芳太郎監督のお蔭でラストシーン=ヤセの断崖となり、その後の能登観光に大きな影響を与えました。

小説のラストシーン

ところが原作の最後では、和倉温泉からタクシーで山越えした後、主人公がタクシー運転手に

”「高浜の方に行ってくださいな」(”出典:松本清張ゼロの焦点」)

と告げ、福浦港からさらに南下しています。

原作では、福浦港から高浜へ南下する途中でタクシーを止めて、主人公はクライマックスの断崖へ向かいます。
地図を辿れば一目瞭然ですが、映画で有名になったヤセの断崖は、タクシーから降りた場所(赤住)からは直線距離で18kmほど北ですし、巌門でも5kmほど北になります。
松本清張の頭の中では、あくまで赤住が断崖の場所だったからです。

やはり、「ヤセの断崖=ゼロの焦点」 は原作のイメージをロケハンで見つけた野村芳太郎監督のお蔭ですね。

ラストシーンについての考察

ラストシーンについては、下記ブログに詳しく書きました。

hanspotter.hatenablog.com

自動車の場合、能登金剛全般を見物するのなら海岸線に沿って県道49号線を走ってください。ただ、途中で狭くなってきますよ。ヤセの断崖など能登金剛の北の方を見物するのなら、国道249号線を進み、門前町に入る前に県道49号線を戻るように走った方が楽だと思います。

ゼロの焦点 金沢のロケ地

ゼロの焦点は金沢も舞台となっています。

映画には、半世紀以上前の懐かしい金沢の風景が登場します。

金沢のロケ地については下記ブログで。

hanspotter.hatenablog.com